<はじき絵>について「素材研究」してみよう

 

 

<はじき絵の原理>

 

 クレヨン・オイルパス(油が入っている)と水彩絵の具(水で溶いて使う)を使います。

<「水と油」は混ざらない>という誰もが知っている原理を使います。でも、子ども達にはとても「不思議」な魔法に見えるのです。そんな「魔法」の種明かしを科学的な視点で見ていきましょう!

 

 

<クレヨン・オイルパスとは?>

 

 クレヨンは歴史が長く、昔から使われている画材。顔料という色素の元をワックス(蝋・ろう)と練り合わせて、棒状にしたものとされています。無毒で、扱いやすいので子ども向けによく使われています。固いので、線描きに向いているが、反対に面を塗ったり色を混ぜたりするのは苦手。

 

 それに対して、オイルパス(サクラという会社が開発、有名な「クレパス」という名称はサクラの商標、一般名称オイルパステル)は、大正時代に日本で生まれたそうです。クレヨンにさらにオイル(油)を練り込んで柔らかくしてあり、面を塗ったり色を混ぜたりもできるものです。なので、オイルパステルはのびがよく、広い面を塗ったり重ね塗りを楽しんだり、ひっかき絵をしたりと様々な表現技法が使えます。線だけで絵を描くことに物足りなくなった、クレヨンの次の段階として使われています(だから、油が入っているオイルパスでなければ「はじき絵」ができない!ことがわかりますね。まぁ、蝋・ろうも水をはじきますけど、クレヨンをかなりしっかり紙に塗りつけないと、はじく効果がわかりにくいです。小さい子にはオススメできません。)

 

 ただし、現在の日本メーカー製クレヨン・オイルパスの成分表を見てみると、なんと!クレヨンもオイルパスも「同じ」成分が使われています!!つまり、使われているオイル(油)やワックス(蝋・ろう)の量が違うだけ・・・!!!なので、クレヨンはワックスが多く「堅い」、オイルパスはオイルが多く「柔らかい」の違いしかないようです・・・。

 

 調べてみると、シュトックマー社(ドイツ)等ヨーロッパのメーカーが作っている蜜蝋クレヨン等は昔ながらの素材で作られているようです。(←だから、油が入っていないので絵の具をはじかない!ぜひ実験してみてください。本当に絵の具をはじかないですから!)

 

 なので、「はじき絵」をするときのポイントは、油の多く入っている(つまり柔らかい)「オイルパス」もしくは日本の文具メーカー製の「クレヨン」(の場合、成分に油が入っているのを必ず確認すること!)を選ぶ必要があります。ここが未確認だと失敗する可能性が大きいです。必ず確認・試作・実験をしましょう!

 

 ちなみに、シュトックマー社の蜜蝋クレヨンは堅いので「こすりだし(フロッタージュ)」をするのに向いています。色鉛筆を使わせるのにまだ難しい年齢にやらせるときは、幅が広い四角いクレヨンが出ていますから、それを使用すると良いですよ。(ちょっと高価ですけど・・・、コピー用紙の様な薄い紙にいろいろなものを写し取るのが楽しいです。葉っぱやマンホールのフタなど凸凹のある物だったら何でも写し取れます。)

 

 

サクラクレパスHP サクラコラム「クレパス・クレヨンはどう違う」

http://www.craypas.comより

 

 

<絵の具>

 

 絵の具を、水で溶いて使う水彩絵の具というのが、こどもが使う一般的なものになります。水彩絵の具は顔料を水溶性樹脂で練り合わせて作ります。水彩絵の具には「透明(裏地が透ける)水彩絵の具」と「不透明(裏地が透けない)水彩絵の具」があります。

 

 

 「透明水彩絵の具」は透明調なので色を塗り重ねて鮮やかな発色と混色が作り出せます。重ね塗りをして画面上で混色ができるのでどんな色になるのか計画的に描き進めていくことが必要になります。(大きい子が使う画材はこちらが主流ですが、濃い色を出したい<大きな画面>のポスターや看板などを描くときは、不透明調のポスターカラーを使うという風に、用途によって使い分けます。基本的には、透明水彩は小学生以上の大きい子向けだと思います。)

 

 

 「不透明水彩絵の具」は不透明調なので塗りむらができにくく、大きな画面でも均一な塗り面になります。不透明であるため下の色に重ねて塗ると覆い隠すことができるので、失敗しても塗り重ねて修正することができます。透明水彩はにじませたり、ぼかしたりと多めの水で溶いて薄塗りするのに対して、不透明水彩は厚塗りや塗り重ねて使うことに適しています。「ポスターカラー」が不透明水彩絵の具の代表的なものになります。(主に小さい子向け。多分、保育園やこども園・幼稚園の幼児さんには「ポスターカラー」を使うことが多いです。)

 

 

 はじき絵をするときは、透明・不透明どちらの絵の具を使ってもできます。ただ、不透明の「ポスターカラー」を濃いめに溶いて使うとはっきりとオイルパスをはじいた跡が見えるので、小さい子が始めてやるには不透明をおすすめします。ここで、重要なのは、濃い色の方がはっきりとはじいた効果が分かること!「絵の具をたくさんの水で薄く溶く」なんてどこかに書いてある<嘘>を信じてやっている方をたまに見かけますが、薄くしちゃダメですよ〜。こどもの好奇心を育てる一番大切な「驚き」まで薄まります・・・(笑)。もし、試作して上手くいかなかったときは「サクラ」や「ペンテル」など大手メーカーの「オイルパス」を使いましょう!絶対に上手くいきます!!

 

 また、大きい子が、オイルパスで描いた絵の背景を絵の具で重ねていく場合は、薄く溶いた透明水彩で塗るとぼんやりと淡い色が出て、背景がきれいな優しい絵に見えます。

 

 

サクラクレパスHP 画材について「水彩絵の具事典」

http://www.craypas.comより

 


 

 

 と、以上のような点をしっかり把握(もちろん知っているだけでなく、試作や実験を)してから行うと、とっても楽しい活動になりますし、科学的な知識があれば失敗したときの「リカバリ(直し)」ができるようになります。

 画材研究をして、クレヨンは油(オイル)が入っていないから、固くて折れにくいということが分かっていたら・・・。

 なんでもかんでもオイルパスの方が良いと思って、指先の力加減が不器用な小さい子に渡したら、線を書くのに柔らかすぎて、真っ直ぐな線が書けなかったり・・・。しかも、オイルパスは柔らかいから、ボキボキ折られてしまったり・・・。

 逆に線画の次の段階の発達の子が、画面に色を塗るのに、クレヨンでは色塗りや混色がやりにくい・・・。オイルパスの方が、柔らかく色塗りがしやすくて良かったのに・・・。なんて発達に合わせた道具準備の失敗も、原因が分かるわけです。

 

 また、不透明調の「ポスターカラー」は、上から塗れば失敗を覆い隠すことができる!とか、100円ショップの安いクレヨンは、ロウが多すぎて顔料(色)が少ないから、発色が悪い、など。いろいろなメーカーやブランドで、画材を使い比べてみるのも面白いですよ。

 

 近くに美大生やデザイン系の学校を出た人や、画材を扱っている業者さんがいれば聞いてみるのが一番です。ちなみに、まるちゃんの一番のオススメ画材メーカーは、「ペンテル」です。白画用紙などの紙に書くときは各メーカーそんなに差は無いのですが、ペットボトル・OPP透明シートやプラスチック・ガラス・ゴミ袋など、どんな素材にも発色良く、きれいにスムーズに描けます。

 

 ネットで調べるのは手軽ですが、意外と間違ったことが書いてあったりすることも多いです。勉強の基本は、「聞く事」「真似する事」です。大人が面白いことをすると、こどももやり始めますよ。ぜひ、実践の前に、試作・実験をしましょう!(小さい子にいきなり試作もせずに出すのは、面白さも分からないのでダメですが・・・。大きい子なら、こどもと一緒に試作・実験やっても面白いです。「どうなるかね?本当にできるかね?」なんて言いながら、盛り上がるのもありです。いろいろな方法でこどもと楽しんでみてください。)

 

 

 

 

<応用編>

 

 ふくろうずでは「はじき絵」を使って、かくれシアターあそびをします。「隠れていーるのだあれ?」の歌に合わせて「白い」画用紙やスケッチブックに「白い」オイルパスで絵を描いた(つまり、絵が見えない)上から絵の具を塗ると、隠れている「絵」がでてくるあそびです。

 

 クイズになっているのでそれ自体も楽しいのですが、だんだんに絵が浮かび上がってくる<不思議さ!>もあって、かくれシアターは2倍も3倍も楽しいあそびになります。(さらに、絵の具の筆を「魔法の筆だ!」なんて言うと、驚きはもっと高まります。)科学的な原理原則を知っていると、応用が利くようになりますのであそびが広がります。「素材研究」「画材の試作や実験」は、めんどくさがらずに、やってみると技術も知識もどんどん広がっていきます。保育者にはぜひ、おすすめします。